古箪笥 再生・修復(修理):事例8 ひーばあちゃんの箪笥 

「私にとっては曾祖母の箪笥なのですが、曾祖母が100歳で亡くなり、以後、10年以上 宮城の片田舎の納戸に仕舞われ朽ちていくいっぽうの古箪笥です。

母がこの箪笥を何とか使えるように出来ないものか、使えるなら引き取って形見として使いたいと言うので修理が出来るものなのか・・・」

こういう書き出しで メールフォーム からお問合せいただきました。

そしてそこには一枚の写真が添えられていました。

 

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「道具も100年経つと神様が宿る」と日本では古くからそう信じられてきました。そんな雰囲気が十分する箪笥でした。

しかし、この写真だけではお見積は難しいので、もう少し細かく撮っていただきそこから概算のお見積をご提示。

実際修理を行う過程で別途追加の費用が発生する可能性があることを了解いただきクロネコさんのらくらく家財宅急便 にて 宮城県より送っていただきました。

(修理依頼でこちらへ発送していただく費用は、お客さまでご負担いただいております)

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宮城県から届いた仙台箪笥(before)

この箪笥、外観は漆塗りだったことがわかりました。そして抽斗や扉の鏡板の部分は栗材が使われているようです。

新品だった時の状態を想像すると、相当な迫力、存在感があったと思われます。

きっとおばあちゃんの嫁入り道具の一つだったのではないだろうか? おばあちゃんの親御さんの想いが、この箪笥には託されたことだろう・・・

などと考えなが修理が進みます。

製造時に打たれた刻印

製造時に打たれた刻印

刻印発見。職人が刻んだ仕事に対する責任ですね。

箪笥の顔 開き戸の飾り金具

ここにおばあちゃんの想い出がいっぱい詰まっているのだと思います。

金具を固定する鉄釘の腐食が酷くどうしようか・・・

金具取り外し

金具、何とか取り外せました。数本、錆のせいで小鋲(釘)の頭が飛び、板の中に残ってしまいましたが・・・

古くなった漆の塗膜を剥ぐのもこの方が断然作業がし易いです。

昭和になって作られた金具は厚みも非常に薄い気がします。

この金具は恐らく明治の後期か大正の初期に作られたのでしょう。

時代背景も金具から伺える気がします。

元の塗装は漆塗りで木地呂という技法で塗られていたものと思われます。金具の下の塗装がそれを教えてくれました。

金具の下の木地呂塗り

塗装を剥がして分かったこと・・・

金具があった以外のところは、油分を吸い込んだ形跡がくっきり出ました。

昔の人は、椿油や米ぬかなどで箪笥を手入れしたと聞きますが、おばあちゃんも小まめに箪笥の手入れを行っていらっしゃったのだと思います。

 

金具も錆を落とし、磨き上げると表情が一新しました。

仙台箪笥の金具

仙台箪笥の金具

縁はヤスリで斜めに削ってあります。この縁の処理は、仙台箪笥の金具の特徴でもあります。

 

側は杉なんですが、鏡板(正面の板)は栗。かなりの重量があります。

造られた当初は漆(木地呂塗り)塗りだったようですが、ご依頼通り、今回はオイルフニッシュです。

修理完了 仙台箪笥

修理完了 仙台箪笥

修理完成(after)

やはり圧巻はこの手打ち金具。

仙台箪笥 飾り金具

仙台箪笥 飾り金具

仙台箪笥 引手金具

仙台箪笥 引手金具

打たれた金具は漆を焼きつけされます。鉄瓶も同じ様に漆を焼き付けるのですが

錆取りにワイヤブラシを使いましたが剥ぎ取ることはできません。そのくらいすごい膜が出来ています。

この質感を生かすべく、錆びない様に膜が出来る処理をしました。

今後の継続的なお手入れで、錆の発生もないと思われます。

 

クロネコらくらく家財宅急便

 

今回の配送は、クロネコらくらく家財宅急便 を利用。

3辺の大きさで送料が決まります。

今回の箪笥のサイズ

W90×D45×H90(cm)

合計250cmまでのCランク

送り先は、おばあちゃんの

お孫さんに当たる方で

東京まで。

岐阜→東京 で¥6300 です。

クロネコさんが丁寧に専用の

服を着せて下さいました。

荷物の積載も、さすがプロ

安心してお預けできました。

依頼主はおばあちゃんのお孫さんですが

メールの問い合わせやその後のやり取りはご依頼主の娘さんが行ってくれました。

この箪笥を一番気に掛けておられたのが、ご依頼主のお父さん。娘さんのおじいちゃんでした。

メールのやりとりで

裏山で土に返すのが一番良いのか と おじいちゃんが悩んでいました」と娘さんからのコメント。

そして・・・

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母は箪笥を見て、最初は感激で「直して良かった! こんなに綺麗になって!!」と喜んでおりましたが、

だんだん、涙を浮かべて思い出を語り始めました。

虫干ししている箪笥の中でかくれんぼした事、

その中に落書き(箪笥の中に残っていましたね)をした事など……。

大事なモノを入れていた箪笥。ばーちゃんが開け閉めする金具の音、それらが蘇り、

ばーちゃんッ子と言うよりは、ばーちゃんに育てられたようなものなので、思い入れも深かったのでしょう。

ばーちゃんの名前、「きくの」と言いますが、笑顔が優しい人でした。

きくのさんは東京の家に来た事がありません。

だから、かなり狭い所でびっくりしちゃっているかもしれませんけど、

これからは母や私たち家族と一緒でお願いします、とまずはご挨拶しました。

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こんなメールを頂き、涙もろい私はうるうるです。

おじいちゃんが、この記事を見てくださるとのこと。

おじいちゃん、おばあちゃんは娘さんご家族に囲まれて新しい生活が始まったようですよ。

 

仙台箪笥の修理は初めてでしたが、かなり勉強になりました。

仙台箪笥の特徴を調べてみましたが、この箪笥は王道を行く造り。金具も手打ち。

当時、かなりの値段がしただろうと思います。

おばあちゃんの嫁入り道具だったとおっしゃってますから、ご両親の想いも沢山詰まっていたのですね。

Tさんご家族、ご依頼いただきありがとうございました。

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