古箪笥 再生・修復(修理):事例1 昔も今も美意識は変わらず
箪笥の修理の依頼をお受けしました。
なかなかいい味わいです。
玄関ホールのディスプレーにお使いになるようです。
板の縮みによる概観の割れや抽斗の不具合を中心に直す事に。
製作時期は7、80年前でしょうか。
ご先代がお使いになっておられたそうです。
木仙人の工房にも古箪笥があります。
祖母が使っていた箪笥を形見にもらいました。
道具類を収納するのに使っています。
いつも傍らで優しかった祖母が見守っていてくれる様な気がします。
そして道具を取り出す度に、子供の頃の想い出がよみがえります。
きっとこの箪笥にも色んな想い出があるんだろうと思います。
長い年数の経過により、板の接合部や金具穴からの割れ、抽斗の板の割れや外れにより、とても使用できる状態ではありませんでした。
依頼の内容は完全修復ではなく、アンティーク調に修理して下さいでした。
つまり古さの味は残さなくてはいけません。
今回活躍した道具は、これです。
この道具、うづくりと言います。
カルカヤと言う植物の根を束ねたものです。
これで板を擦り、木の目を浮かせます。特に杉や桐材の表面の処理によく使われます。
うづくりで擦ったあとです。茶色い部分より白い部分の方が柔らかいので木目が浮くようになります。
今回は、アンティーク調に仕上げると言うことが重要です。
年数が経っている分、キズや汚れが目立ちました。一般的に修理と言うと、板を最小限カンナで削るのが定石でしょう。
しかしながら、削ってしまうと新しい面が出て新品に近い木肌になってしまいます。
キズと汚れ、そして塗装した時の質感を考慮し、うづくりを選びました。
長い年月の間に、板の乾燥が進み割れがどの面にも発生していました。
縮んだ部分は板を延ばす事が出来ないので、継ぎ足します。
(修理コストの関係上、金具は交換の必要が無かったので、取り外さず修理しました)
板の木目も綺麗になりました。側面や裏板は杉材でした。
抽斗の桐材部分、修理前
ここも、うづくりで綺麗にします。
艶やかな木肌になりました。
べんがらとは酸化第二鉄を主成分とする無機顔料です。
色は、赤~紫、黄、黒があり無害・無毒です。
化粧品、塗料、インキ、食品等に広く使用されてます。
アンティーク調つまり古めかしい色合いになる様、黒・赤・黄を大体一定の割合で調合し、植物油5:べんがら1の割合で良く混合します。(抽斗の桐部分は、植物油の量を多くし、色をやや抑えました)
植物油はクルミ油を使ってます。
塗布する際の延びも良く、乾燥後木の内部でしっかり固まってくれます。また、変色も無いので家具など木製品の仕上げに良く使われます。
側面の杉材の木目が良く目立ち、良い感じです。
画像の箪笥の隅金具(コーナー等に鋲打ちしてある金具)は腐食も激しいのばかりだったので、依頼者の了解を得て交換する事に。
塗装が乾いたところで、蜜蝋やライスワックスなど天然成分でできた、赤ちゃんが舐めても安心なワックスを優しく摺込み完成です。
そして、納品。
先に収めた下足箱とで、玄関フロアはこうなりました。
修理も終盤にさしかかった頃、この箪笥の製作時期を特定できる材料を発見。
三段積みの最上部の引戸は、襖でした。その下地に新聞が貼ってありました。
時代を特定できるものはと探してみると、ありました。
公示の記事のところに「明治四拾年四月拾七日」。
この箪笥、100年前に作られた可能性のあるものだったんです。
これには、依頼主様もビックリされてました。
「今まで100年、これから100年。合わせて200年。凄いことだねー」
依頼主様のこの言葉が印象に残った仕事でした。
この新聞良く見てください。
今も昔も、女性の美意識変わりません。
一同、大笑いでした
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上記修理費用
二段積み
・板割れなど補修
・金具(隅金具)交換
・汚れ落し(サンディング、うづくり)
・塗装(オイル+べんがら)
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修理費用
¥145,000-
三段積み
・板割れなど補修
・金具(隅金具)交換
・汚れ落し(サンディング、うづくり)
・塗装(オイル+べんがら)
・上段、分解組立
(側板、鏡板交換、内部調整など)
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修理費用
¥185,000-